個人が自分のスキルや時間を売り、別の個人がそれを買う。この C2C のスキルシェア市場で国内の代表格となっているのが、ココナラ・ストアカ・タイムチケットの 3 社である。一見すると「個人の能力を売買する場」という点で似ているが、3 社の中身を分解すると、売っている対象も、手数料の取り方も、出品者を集める導線も、信頼を担保する仕組みも、まったく異なる設計になっている。
本記事は、売り手と買い手の両方を同じ場に集めるマーケットプレイス(二者間プラットフォーム)を新規に作る、あるいは既存サービスを改善しようとする事業責任者・PdM・経営者・新規事業担当者が、転用できる設計原理を抽出するために書いた。「売る対象」「手数料の課金軸」「出品オンボーディングと発見」「信頼設計と鶏と卵の解き方」という 4 軸で 3 社を同じ抽象度に揃えて解剖していく。数値はすべて各社の決算資料・公式ヘルプ・プレスリリースを一次資料として確認したものに限定している。
軸 1:何を売るマーケットか — 総合スキル / 学び / 時間
3 社はいずれも「個人の能力」を商材にするが、能力をどう切り出して並べるかが違う。この切り出し方の違いが、後段の手数料・導線・信頼設計のすべてを規定している。
| 項目 | ココナラ | ストアカ | タイムチケット |
|---|---|---|---|
| 売る対象 | 総合スキル(役務・制作物・相談・出品代行)水平型 | 学び・講座(対面/オンラインのレッスン) | 個人の時間(30 分単位のチケット) |
| 取引の形 | 成果物・役務の納品 | 講座への参加・受講 | 時間枠の予約・対面/オンライン面談 |
| カテゴリの広さ | 740 種以上 | 500 ジャンル・掲載講座 8.4 万件 | 個人の時間という単一フォーマット |
| 運営主体 | 株式会社ココナラ(東証グロース 4176) | ストリートアカデミー株式会社 | 株式会社タイムチケット(グローバルウェイ連結子会社) |
ココナラは「役務・制作物・相談」を水平に何でも扱う総合型で、カテゴリ 740 種以上という幅が最大の特徴である。ストアカは「学び」という縦軸に絞り、個人講師が講座やワークショップを開催して生徒が単発で学ぶ形に統一した。タイムチケットは商材を「個人の 30 分」という時間単位にまで抽象化し、何のスキルであっても「時間枠の売買」という単一のフォーマットに落とし込んでいる。
同じ「個人の能力を売る場」でも、ココナラは成果物を、ストアカは学習体験を、タイムチケットは時間そのものを商品の単位に選んだ。この単位の違いが、価格の付け方・取引完了の定義・信頼の測り方をすべて分岐させる。自社で売り手と買い手のマーケットを作るなら、最初に決めるべきは「個人の何を、どの単位で商品化するか」であり、これがプロダクト全体の設計を縛る一次変数になる。
軸 2:手数料の課金軸 — 両面課金 / 集客連動 / 段階制
マーケットプレイスの収益は手数料率(テイクレート、取引額に対して運営が取る割合)で決まるが、3 社は「誰から・何を基準に」手数料を取るかが三者三様である。

| 項目 | ココナラ | ストアカ | タイムチケット |
|---|---|---|---|
| 課金の軸 | 両面課金(出品者+購入者) | 集客チャネル連動 | 取引金額帯の段階制 |
| 出品者/講師側の手数料 | 22%(税込、販売時手数料 20%×1.1)、ビデオチャット 27.5% | 集客経路で可変(後述) | 段階制(後述、+税) |
| 購入者/生徒側の手数料 | 5.5%(税込、2021 年 4 月〜) | 追加手数料なし | 無料 |
| 全体の手数料率 | マーケット事業 29.1% | 集客経路により変動 | 取引金額帯により変動 |
ココナラは出品者から 22%、購入者から 5.5% を取る両面課金で、マーケット事業全体の手数料率(テイクレート)は 29.1% に達する。これは 3 社の中で最も高い水準で、総合型ゆえに幅広い取引から薄く広く取るのではなく、両面から厚く取る設計になっている。
ストアカの手数料は「誰がその生徒を連れてきたか」で変わる。
| 集客経路 | 講師の販売手数料 |
|---|---|
| 自己集客(初回) | 10% |
| ストアカ送客・オンライン(初回) | 30% |
| ストアカ送客・対面(初回) | 20% |
| 2 回目以降(リピーター) | 一律 10% |
講師が自分で連れてきた生徒なら 10%、ストアカが集客した生徒なら初回はオンライン 30%・対面 20%、そして 2 回目以降のリピーターは経路を問わず一律 10% になる(いずれも別途税)。掲載自体は無料で、生徒側に追加手数料はない。つまりストアカは「集客という価値を提供した分だけ手数料を取る」という思想であり、講師が自走できるようになるほど運営の取り分が下がる構造になっている。
タイムチケットは取引金額帯による段階制を採る。
| 取引金額帯 | ホスト(出品者)手数料 |
|---|---|
| 5 万円以下 | 25% |
| 5 万円超〜10 万円 | 20% |
| 10 万円超 | 15% |
少額の取引ほど料率が高く、高額になるほど下がる(いずれも+税、2025 年 8 月 1 日〜の公式ヘルプ準拠)。ゲスト(購入者)は無料である。なお「一律 10%」という表記は過去のもので、現行は上記の段階制であることを確認している。
3 社の手数料思想を一言で並べると、ココナラは「両面から厚く取る」、ストアカは「自社が貢献した分だけ取る」、タイムチケットは「少額ほど厚く取る」となる。手数料率は単なる数字ではなく、プラットフォームが「自分の何に対価を取るのか」という宣言である。集客に自信があるなら集客連動、決済・与信・保護の提供価値が大きいなら両面課金、というように、手数料率の設計は自社の提供価値の定義とセットで決めるべきだ。
軸 3:出品オンボーディングと発見の仕組み
売り手をどう集め、買い手にどう見つけてもらうか。この売り手・買い手の両側面が、3 社では商材の単位に対応して分岐している。

| 項目 | ココナラ | ストアカ | タイムチケット |
|---|---|---|---|
| 主な発見導線 | 検索・スカウト・募集(依頼を出して提案を集める) | 講座検索(ジャンル・日時で探す) | チケット一覧(時間枠を探す) |
| 出品の単位 | サービス出品(自分の役務をメニュー化) | 講座開催(日程・定員を設定) | チケット発行(30 分単位の枠) |
| 供給の規模感 | 出品者 120 万人・出品約 100 万件 | 掲載講座 8.4 万件 | 会員 100 万人(2024 年 8 月突破) |
ココナラは「出品者がサービスをメニュー化して並べる」だけでなく、購入者が依頼内容を投げて提案を募る「募集」、運営や購入者が出品者を指名する「スカウト」という複数の発見導線を持つ。総合型ゆえに探し方が一通りでは足りず、能動的な検索と受動的なマッチングの両方を用意している。
ストアカは商材が「講座」なので、発見は日時・ジャンルでの講座検索が中心になる。生徒は「いつ・何を学ぶか」で探すため、在庫(開催日程)と検索性が体験の核になる。タイムチケットは「個人の時間」という単一フォーマットゆえ、チケット一覧から時間枠を選ぶという単純な導線に収斂している。
発見導線は商材の単位の写像である。役務のように要件が一品ごとに違うものはスカウト・募集のような能動マッチングが要り、講座のように日時で在庫が決まるものは検索とカレンダーが要り、時間枠のように規格化されたものは一覧で足りる。自社の商材がどの程度規格化できるかを見極めれば、必要な発見画面はおのずと決まる。
軸 4:信頼設計と鶏と卵の解き方
個人どうしが顔の見えない相手と取引するマーケットでは、信頼の担保と、立ち上げ時の「売り手も買い手もいない」という鶏と卵問題の解決が生死を分ける。
| 項目 | ココナラ | ストアカ | タイムチケット |
|---|---|---|---|
| 信頼の担保 | 評価・実績の可視化、運営による売上の仲介(取引完了まで運営が代金を保持) | 受講者の評価・満足度(98.3%)、講座実績の蓄積 | ホストの評価・取引実績の可視化 |
| 規模の裏付け | 会員 550 万人、法人会員 54 万超、連結売上 94.1 億円 | 累計受講者 150 万人突破(2024 年 9 月) | 会員 100 万人突破(2024 年 8 月) |
3 社に共通するのは「評価と実績の可視化」だが、ココナラはさらに運営が取引代金をいったん預かり、取引完了まで保持する仲介の仕組みで、見ず知らずの相手との金銭トラブルを構造的に減らしている。この「運営が決済の真ん中に立つ」設計こそ、両面課金で高い手数料率を正当化する提供価値でもある。
鶏と卵問題の解き方として、ココナラの立ち上げ期は示唆に富む。同社は供給(出品者)を先行させた。β 版では創業者の友人網およそ 1,000 人に声をかけ、登録 400 人・出品 200 人を確保したという。さらに初期は「ワンコイン 500 円均一」という価格設計を採り、買い手にとっては「失敗しても 500 円」、売り手にとっては「まず売ってみる心理的ハードルが低い」という両面の障壁を同時に下げた。供給を先に厚くし、価格を均一化して取引の摩擦を消すことで、最初の取引が回り始める臨界点を超えていったと考えられる。
鶏と卵は「両側を同時に集める」のではなく「片側を先に厚くし、もう片側が来る理由を作る」ことで解ける。ココナラの供給先行+ワンコイン均一は、初期の取引リスクと心理的障壁を意図的にゼロに近づけた典型例だ。自社で売り手と買い手のマーケットを立ち上げるなら、どちらの側を先に獲るか、そして最初の取引を「失敗しても痛くない」設計にできるかを最優先で設計すべきである。
まとめ — 3 社の構造から取り出せる設計原理
ココナラ・ストアカ・タイムチケットは、同じ「個人の能力を売買するマーケット」でありながら、商材の単位(総合スキル/学び/時間)を起点に、手数料(両面課金/集客連動/段階制)・発見導線(スカウト募集/講座検索/チケット一覧)・信頼設計が一貫して分岐している。
ここから売り手と買い手のマーケットプレイスを設計・改善する側が取り出せる原理は 4 つに整理できる。第一に、最初に決めるべきは「個人の何を、どの単位で商品化するか」であり、これが全設計を縛る一次変数になる。第二に、手数料率は「自社が何に対価を取るのか」の宣言であり、集客・決済・保護のどれを価値の中心に置くかとセットで決める。第三に、発見画面は商材の規格化度合いの写像であり、規格化が低いほど能動マッチング、高いほど一覧で足りる。第四に、鶏と卵は片側を先に厚くし、最初の取引の摩擦を消すことで超える。
テクラル研究所からの提案
私たちテクラル合同会社は、売り手と買い手のマーケットプレイスをはじめとするプロダクトの構想・設計・MVP 開発から、UX 改善・収益化設計の見直しまでを一気通貫で支援しています。「どちらの側を先に集めるか」「手数料の課金軸をどう置くか」「最初の取引の摩擦をどう消すか」といった、立ち上げの肝になる設計判断の壁打ちから、実際のプロダクト開発まで承ります。
新規事業の構想段階・既存プロダクトの UX 改善・収益化設計の見直しに取り組む事業責任者・PdM・経営者・新規事業担当者の方は、いずれの段階でもテクラル合同会社までお気軽にご相談ください。
出典
- ココナラ 決算・IR 資料: https://coconala.co.jp/ir/library/presentation/
- ココナラ 出品者手数料: https://coconala-support.zendesk.com/hc/ja/articles/230180287
- ココナラ 購入者手数料: https://coconala-support.zendesk.com/hc/ja/articles/900005462403
- ストアカ 手数料: https://www.street-academy.com/fee
- ストアカ 累計受講者 150 万人: https://corp.street-academy.com/news/release20240910
- タイムチケット 手数料(公式ヘルプ): https://help.timeticket.jp/articles/19386
- タイムチケット 会員 100 万人: https://www.globalway.co.jp/news/notice/6594/




