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アンドパッドはなぜ建設DXで急成長したか — 縦割り業界にSaaSを浸透させた4期構造分析

テクラル研究所 編集部

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アンドパッドはなぜ建設DXで急成長したか — 縦割り業界にSaaSを浸透させた4期構造分析

建設業は、長くDXが最も遅れた業界とされてきた。紙の図面、電話とFAX、現場と事務所の往復——その縦割りの中で、アンドパッド(ANDPAD)は施工管理クラウドとして急成長し、建設業界に広くSaaSを浸透させた。なぜ成功したのか。結論はシンプルだ。最も紙が多く痛みの大きい「施工管理」という一点から現場に入り、そこを定番化させてから周辺業務へ多機能化し、最後に現場の取引データを核に受発注・金融という経済圏へ広げた——業界特化型SaaSの「一点で深く入り、そこから広げる」拡大ロジックを、教科書どおりに実行したからである。

本稿は、特定業界に深く入る業界特化型SaaS(バーティカルSaaS)を立ち上げようとしている、あるいはレガシーな業界のDXに取り組む事業責任者・PdM・経営者・新規事業担当者に向けて、アンドパッドの成長を4期で構造分析し、自社に転用できる原理を抽出する。

なぜ建設業のDXは遅れていたか — 3つの分断

アンドパッドの成功を理解するには、まず建設業が抱えていた構造的な分断を押さえる必要がある。

建設業の3つの分断 現場と事務所 元請けと協力会社 工程と書類

建設の現場には3つの分断がある。屋外の現場と内勤の事務所が離れ、情報が電話やFAXで往復する分断。元請けと多数の協力会社(下請け)がそれぞれ別の手段で連絡する分断。そして工程表・図面・写真・検査記録といった書類がバラバラに散らばる分断だ。この分断こそ、現場の長時間労働と手戻りの温床であり、アンドパッドが解こうとした痛点である。

示唆: レガシー業界のDXで最初に問うべきは「機能が足りないこと」ではなく「何と何が分断されているか」だ。分断された関係者と情報を1か所に束ねる価値こそ、業界特化型SaaSの出発点になる。自社が狙う業界の分断を、現場・取引・書類の3軸で書き出すことから始めるとよい。

アンドパッドの拡大ロジック — 一点で入り、広げる

アンドパッドは、この分断をすべて一度に解こうとはしなかった。最も痛い一点から入り、段階的に広げた。

アンドパッドの拡大ロジック 施工管理で現場に入る 周辺業務へ多機能化 受発注・金融で経済圏

まず施工管理——現場の写真・工程・チャットを束ねる業務——で現場に入った。ここは紙と電話が最も多く、現場の人が毎日触る領域だ。次に、その毎日使われる足場を起点に、図面・検査・原価管理など周辺業務へ多機能化した。そして最後に、現場に溜まった受発注データを核に、資材の取引や金融まで視野に入れた経済圏へと広げていく。一点で深く入って毎日使われる地位を築き、そこから隣接業務へ広げるこの順番が、急成長の骨格である。

示唆: 業界特化型SaaSは「全部入りの便利ツール」から始めると、どの業務にも浅くしか刺さらず使われない。最も痛い一点に絞って毎日使われる地位を取り、そこを足場に広げる。最初の一点が「毎日使われるか」が、その後の拡大余地を決める。

4期で見る成長

アンドパッドの12年余りを4つの期に分けると、各局面で何を獲りに行ったかが見えてくる。

フェーズ 何をしたか 獲りに行ったもの
第1期 黎明期 施工管理アプリで現場の紙・電話・FAXをデジタル化 現場の毎日の利用
第2期 定番化 大型の資金調達を重ね、施工管理クラウドの定番として導入を拡大 業界内のシェアと信頼
第3期 マルチプロダクト化 図面・検査・原価・受発注など周辺業務へ製品を拡張 1現場の業務全体
第4期 経済圏へ 受発注データを核に、取引・金融など建設のプラットフォームへ 業界の取引基盤

第1期は、現場が毎日使うアプリとしての地位づくりに徹した。第2期では、複数回の大型資金調達を背景に営業・開発を加速し、施工管理SaaSの代名詞となる規模まで導入社数を伸ばした。第3期で周辺業務を取り込み、1つの現場の業務全体をアンドパッドの中で完結させる多機能化を進めた。そして第4期、現場で発生する受発注という取引データを核に、業界の取引基盤そのものになろうとしている。

示唆: 資金調達は「定番化」の局面で最も効く。毎日使われる一点を築いた後に資本を投下すれば、営業と開発を一気に加速してシェアを取りに行ける。逆に、まだ毎日使われていない段階で資金を機能の拡張に使うと、薄く広いプロダクトになりやすい。投資のタイミングはフェーズと噛み合わせる必要がある。

追い風: 2024年問題と人手不足

成長は実行力だけで生まれたわけではない。社会の変化が強い追い風になった。建設業には2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、長時間労働を前提にした働き方が成り立たなくなった。深刻な人手不足と高齢化も重なり、「現場の業務をデジタルで効率化する」必要性が経営課題として一気に高まった。アンドパッドは、この規制と人手不足という不可避の変化を追い風として捉えられる位置に、先回りして製品を置いていた。

示唆: 規制強化や人手不足のような「避けられない社会の変化」は、業界特化型SaaSにとって最大の追い風になる。自社が狙う業界に、近く施行される規制や構造的な人手不足がないかを調べ、その変化が必要性を押し上げる領域に先回りしてプロダクトを置く。変化が来てから動くのでは遅い。

転用できる5つの原理

アンドパッドの構造から、業界特化型SaaSに転用できる原理を5つ抽出する。

  1. 最も痛い一点から入る: 業界の分断のうち、最も紙・電話・手戻りが多い業務に絞って入る。
  2. 毎日使われる地位を取る: 最初の製品は、現場の人が毎日触るものにする。利用頻度が低い業務から入ると拡大の足場にならない。
  3. 定番化してから広げる: 一点で定番になってから周辺業務へ多機能化する。順番を逆にしない。
  4. データを握って経済圏へ: 業務で溜まる取引データを核に、取引・金融など隣接領域へ広げる。
  5. 避けられない変化を追い風にする: 規制・人手不足など不可避の変化が必要性を押し上げる領域に先回りする。

これらは建設に限らず、医療・物流・飲食・小売など、分断が大きくDXの遅れた業界に挑む業界特化型SaaSすべてに当てはまる。

テクラル研究所からの提案

業界特化型SaaSでつまずくのは、「便利な全部入りツール」を最初から作ろうとして、どの業務にも浅くしか刺さらないことにある。本稿で見たとおり、アンドパッドの成功は、最も痛い一点から入り、毎日使われる地位を取り、定番化してから広げるという順番の徹底から生まれている。どの一点から入るか、何を毎日使われる足場にするか——この順で設計すれば、その後の拡大余地が開ける。

レガシー業界のDXや業界特化型SaaSを構想している方、最初の一点(MVP)をどの業務に置くか迷っている方、多機能化のロードマップを描きたい方は、まず「自社が狙う業界の最も痛い一点はどこか」を一緒に見極めるところから始めるのが近道だと考えています。

テクラル合同会社では、新規事業のMVP開発・プロダクト設計・UI/UX・収益化設計の伴走を提供しています。新規事業の構想段階・業界特化型SaaSの立ち上げ・既存プロダクトの拡張に取り組む事業責任者・PdM・経営者・新規事業担当者の方は、いずれの段階でもテクラル合同会社までお気軽にご相談ください。設計の壁打ち相手としてのご相談も承ります。

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テクラル合同会社が運営する「テクラル研究所」の編集部。Web・アプリ・SaaS プロダクトの市場リサーチ、UI/UX 分析、収益化設計を専門領域に、開発会社ならではの「作る側の解像度」で記事と一次リサーチ資料(ホワイトペーパー)を発信しています。MVP 開発、SaaS 構築、AI 機能組み込みの現場知見を活かし、フレームワークと数値で語ることを編集方針としています。

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